健康診断の結果表で「TG」や「トリグリセリド」と表記されているのが中性脂肪の数値です。中性脂肪の基準値は空腹時で30~149mg/dlとされています。この範囲内であれば正常と判断されますが、150mg/dl以上になると「脂質異常症(高トリグリセライド血症)」と診断されることがあります。
血液検査を受ける際の注意点として、食事の影響を強く受けるため、正確な数値を知るためには8~12時間程度の空腹状態で検査を受けることが重要です。食後に検査を受けると、一時的に中性脂肪値が上昇することがあるため、健康診断の前日は夜9時以降の食事を控えるようにしましょう。
また、中性脂肪値は日によって変動することがあるため、1回の検査結果だけで判断せず、定期的に検査を受けて推移を見ていくことが大切です。
「中性脂肪」と「トリグリセリド」は同じものを指す言葉として使われることが多いですが、厳密には少し違いがあります。トリグリセリドは中性脂肪の主要成分であり、グリセロールと3つの脂肪酸が結合した化学構造を持っています。血液検査では、このトリグリセリドの量を測定して中性脂肪値としています。
中性脂肪は体内で最も多く存在する脂肪成分で、食事から摂取した脂質や糖質の余剰分が肝臓で合成され、全身を巡ります。エネルギー源として使用されなかった中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積されます。
中性脂肪は体にとって必要な成分であり、エネルギー源としての役割だけでなく、皮下脂肪となって体温を維持したり、内臓脂肪となって内臓を保護したりする重要な機能も担っています。
中性脂肪値が高すぎる場合、さまざまな健康リスクが高まります。150mg/dl以上になると脂質異常症と診断され、放置すると動脈硬化を引き起こす原因となります。動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な疾患のリスクが高まります。
具体的には、中性脂肪値が高いと以下のような病気のリスクが高まります:
例えば、脳卒中の場合、発作が起きてから3時間以内の治療開始が重要で、医療費総額の平均は入院で約187.6万円にもなります。心筋梗塞も同様に深刻で、最初の発作で3割の方が命を落とすとも言われています。
一方で、中性脂肪値が基準値より低すぎる場合(30mg/dl未満)も注意が必要です。体内に蓄えられたエネルギーが少ない状態となり、疲れやすくなったり、体温維持がうまくできずに低体温や手足の冷えなどの症状が現れることがあります。また、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などの疾患が隠れている可能性もあります。
健康診断では中性脂肪だけでなく、コレステロールの値も同時に測定されることが多いです。中性脂肪とコレステロールは密接な関係があり、中性脂肪が増えすぎると、LDL(悪玉)コレステロールが増加し、HDL(善玉)コレステロールが減少する傾向があります。
コレステロールの基準値は以下の通りです:
検査項目 | 基準値 | 高値の目安 |
---|---|---|
総コレステロール | 140~199mg/dl | 220mg/dl以上 |
HDL(善玉)コレステロール | 40~96mg/dl | - |
LDL(悪玉)コレステロール | 70~139mg/dl | 140mg/dl以上 |
中性脂肪とLDLコレステロールがともに高い状態は、動脈硬化のリスクをさらに高めます。血管の壁にコレステロールなどが蓄積すると、血管が狭くなったり硬くなったりして、血液の流れが悪くなります。これが動脈硬化の始まりです。
一方、HDLコレステロールは血管内の余分なコレステロールを回収して肝臓に運ぶ働きがあるため、「善玉」と呼ばれています。HDLコレステロールの値が高いほど、動脈硬化のリスクは低くなると言われています。
あまり知られていませんが、中性脂肪値と甲状腺機能には密接な関係があります。甲状腺ホルモンは体内の代謝を調節する重要な役割を担っており、中性脂肪の代謝にも大きく関わっています。
中性脂肪値が高い場合、甲状腺ホルモンの血中濃度が低下し、甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。甲状腺機能低下症になると、代謝が低下して疲れやすくなったり、体重が増加したりする症状が現れます。
逆に、中性脂肪値が低すぎる場合は、甲状腺の働きが活発になりすぎて、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)を発症するリスクが高まります。バセドウ病になると、動悸や発汗、体重減少、眼球突出などの症状が現れることがあります。
健康診断で中性脂肪値に異常が見られる場合は、甲状腺機能の検査も併せて受けることで、より正確な健康状態の把握につながります。特に原因不明の中性脂肪値の変動がある場合は、甲状腺機能の検査を医師に相談してみるとよいでしょう。
中性脂肪値が高くなる主な原因の一つが食生活です。特に以下のような食習慣が中性脂肪値を上昇させる要因となります:
中性脂肪値を改善するためには、以下のポイントを意識した食生活を心がけましょう:
食事の改善は一朝一夕にはいきませんが、少しずつ習慣を変えていくことで、中性脂肪値の改善につながります。極端な食事制限は逆効果になることもあるため、バランスを重視した食生活を心がけましょう。
中性脂肪値を下げるためには、適切な運動習慣を身につけることが非常に効果的です。運動には以下のような効果があります:
中性脂肪を効率よく減らすための運動方法と頻度は以下の通りです:
運動を始める際のポイントは、無理なく続けられる強度と頻度から始めることです。いきなり高強度の運動を行うと、怪我のリスクが高まったり、続かなくなったりする可能性があります。まずは日常生活の中で少しずつ活動量を増やし、徐々に運動の強度や時間を増やしていくことをおすすめします。
また、運動前後の水分補給も忘れずに行いましょう。特に暑い季節は熱中症のリスクもあるため、こまめな水分補給が重要です。
アルコールの過剰摂取は中性脂肪値を上昇させる大きな要因の一つです。アルコールが中性脂肪に与える影響には以下のようなものがあります:
中性脂肪値を適正に保つための適切な飲酒量は以下の通りです:
お酒の種類 | 1日の適量目安 | アルコール量 |
---|---|---|
ビール(5%) | 中瓶1本(500ml) | 約20g |
日本酒(15%) | 1合(180ml) | 約22g |
ワイン(12%) | グラス2杯(200ml) | 約20g |
焼酎(25%) | 0.6合(110ml) | 約22g |
ウイスキー(43%) | ダブル1杯(60ml) | 約20g |
健康的な飲酒習慣のポイントは以下の通りです:
適量の飲酒は心疾患のリスク低減など、一部の健康効果が報告されていますが、「百薬の長」とはいえ、飲み過ぎは様々な健康リスクを高めます。特に中性脂肪値が高めの方は、アルコール摂取量を見直すことで、数値の改善が期待できます。