赤血球数と多血症の関係や基準値について

健康診断で赤血球数が気になる方へ向けた記事です。赤血球数の基準値や多血症との関係、検査の見方などを詳しく解説しています。あなたの健康診断の数値、正しく理解できていますか?

赤血球数の基準値と多血症の関係

赤血球数の基本情報
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赤血球の役割

酸素を全身に運搬し、二酸化炭素を回収する重要な役割を担っています

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基準値の目安

男性:427~570万/μL、女性:376~500万/μL

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異常値の意味

低値は貧血、高値は多血症の可能性があります

健康診断で「赤血球数」という項目を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。この数値が基準値を外れていると、医師から「貧血かもしれません」や「多血症の可能性があります」と言われることがあります。赤血球数は私たちの健康状態を反映する重要な指標の一つなのです。

 

赤血球は血液中で最も多い細胞成分で、全血球の99%以上を占めています。その主な機能は、肺で取り込んだ酸素を全身の組織に運び、不要となった二酸化炭素を回収して肺に戻すという、生命維持に欠かせない役割を担っています。

 

健康な状態では、血液中の赤血球数は一定の範囲内に保たれています。一般的な基準値は、男性で427~570万/μL、女性で376~500万/μLとされていますが、検査機関によって若干の違いがあることもあります。

 

赤血球数とヘモグロビン・ヘマトクリット値の関係

赤血球に関する検査では、赤血球数だけでなく、ヘモグロビン(Hb)とヘマトクリット(Ht)の値も重要です。これらは互いに関連しており、総合的に判断することで、より正確な診断が可能になります。

 

ヘモグロビンは赤血球内に存在するタンパク質で、酸素と結合する役割を持っています。1gのヘモグロビンは約1.34mLの酸素と結合できるという驚くべき能力を持っています。ヘモグロビンの基準値は、男性で13.7~16.8g/dL、女性で11.6~14.8g/dLです。

 

一方、ヘマトクリット値は全血液中に占める赤血球の容積の割合を示す値で、男性で40.7~50.1%、女性で35.1~44.4%が基準値とされています。血液を遠心分離すると、重い赤血球は下部に集まり、その割合がヘマトクリット値として測定されます。

 

これら3つの値は通常、以下のような関係にあります:

  • 赤血球数が増加すると、ヘモグロビンとヘマトクリット値も増加する傾向
  • 赤血球数が減少すると、ヘモグロビンとヘマトクリット値も減少する傾向

ただし、貧血のタイプによっては、これらの値が異なる動きをすることもあります。例えば、鉄欠乏性貧血では、ヘモグロビンやヘマトクリットの低下が赤血球数の低下よりも顕著に現れることがあります。

 

赤血球数が多い場合の多血症について

赤血球数が基準値よりも多い状態を「赤血球増加症」または「多血症」と呼びます。多血症の診断基準は以下のようになっています:

  • 男性:ヘモグロビン > 16.5 g/dL、ヘマトクリット > 49%
  • 女性:ヘモグロビン > 16.0 g/dL、ヘマトクリット > 48%

ヘモグロビンまたはヘマトクリットのどちらか一方が基準を超えていても多血症と診断されることがあります。ただし、赤血球数自体は多血症の診断基準には含まれていないことに注意が必要です。

 

多血症は大きく分けて「相対的多血症」と「真の多血症」の2種類に分類されます。

 

**相対的多血症**は、実際の赤血球数が増えているわけではなく、脱水状態などによって血液が濃縮された結果、見かけ上赤血球数が多く見える状態です。これは、嘔吐や下痢の後、あるいは健康診断の前日から水分をほとんど摂取せずに検査を受けた場合などに起こりやすいです。また、喫煙やストレスによっても同様の状態が引き起こされることがあります。

 

**真の多血症**は、実際に赤血球数が増加している状態で、さらに以下の2つに分けられます:

  1. 造血機能以外に原因がある場合
    • 低酸素が原因(心臓や肺の疾患、睡眠時無呼吸症候群など)
    • エリスロポエチンの過剰産生(腎臓の動脈硬化、腫瘍など)
  2. 造血機能自体に異常がある場合
    • 真性赤血球増加症(骨髄増殖性腫瘍の一種)

多血症は血液がドロドロになることで血流が悪くなり、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な合併症を引き起こす可能性があります。特に真性赤血球増加症は、1年に10万人あたり2人程度と非常にまれですが、放置すると危険な状態になりかねません。

 

赤血球数が少ない場合の貧血について

赤血球数が基準値より少ない状態は、一般的に「貧血」と呼ばれます。貧血は、ヘモグロビン濃度が基準値より低い状態として定義されることが多く、WHOの基準では以下のように定められています:

  • 乳幼児・妊婦・高齢者:Hb 11g/dL以下
  • 成人女性:Hb 12g/dL以下
  • 成人男性:Hb 13g/dL以下

貧血の症状としては、疲れやすい、息切れ、動悸、めまい、顔色が悪いなどが挙げられます。ただし、軽度の貧血では自覚症状がないこともあります。

 

貧血の種類を鑑別するには、赤血球恒数と呼ばれる以下の指標が用いられます:

  • MCV(平均赤血球容積):赤血球の大きさを示す指標
  • MCH(平均赤血球ヘモグロビン量):赤血球1個あたりのヘモグロビン量
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):赤血球内のヘモグロビン濃度

これらの値によって、貧血は以下のように分類されます:

  1. 小球性貧血(MCV < 84fL)
    • 鉄欠乏性貧血
    • サラセミア(遺伝性貧血)など
  2. 正球性貧血(MCV 84~98fL)
    • 再生不良性貧血
    • 溶血性貧血
    • 慢性疾患に伴う貧血など
  3. 大球性貧血(MCV > 98fL)
    • ビタミンB12欠乏性貧血
    • 葉酸欠乏性貧血など

貧血の原因は多岐にわたりますが、日本人に最も多いのは鉄欠乏性貧血で、特に月経のある女性に多く見られます。また、胃切除後の方や、慢性的な出血(消化管出血など)がある方も鉄欠乏性貧血になりやすいです。

 

赤血球数の検査方法と注意点

赤血球数の検査は、一般的な血液検査の一部として行われます。採血した血液を自動血球計数装置にかけることで、赤血球数だけでなく、白血球数や血小板数、ヘモグロビン、ヘマトクリットなど、様々な血液成分を同時に測定することができます。

 

検査の精度を高めるためには、以下のような点に注意することが重要です:

  1. 水分摂取:検査前日から適切な水分摂取を心がけましょう。脱水状態だと相対的多血症と誤診される可能性があります。

     

  2. 喫煙:喫煙は一時的に赤血球数を増加させることがあります。可能であれば、検査前は喫煙を控えましょう。

     

  3. 運動:激しい運動の直後は、一時的に血液濃度が変化することがあります。検査前の激しい運動は避けるのが望ましいです。

     

  4. 食事:検査前の食事制限は通常必要ありませんが、脂肪分の多い食事を摂ると血液が白濁し、測定に影響を与えることがあります。

     

  5. 薬剤:一部の薬剤は血液検査の結果に影響を与えることがあります。医師や検査技師に服用中の薬について伝えておくことが大切です。

     

また、高地に住んでいる方は、低酸素環境に適応するため、平地に住む人よりも赤血球数が多い傾向があります。このような生理的な変動も考慮に入れる必要があります。

 

赤血球数と生活習慣の関連性

赤血球数は、私たちの日常生活の様々な要素と密接に関連しています。健康的な赤血球数を維持するためには、以下のような生活習慣に気を配ることが重要です。

 

食事と栄養
赤血球の生成には、鉄分、ビタミンB12、葉酸などの栄養素が不可欠です。特に鉄分は赤血球中のヘモグロビンの主要成分であり、不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こす可能性があります。

 

鉄分を多く含む食品:

  • レバー(豚、鶏、牛)
  • 赤身の肉
  • 魚介類(特にアサリ、しじみなどの貝類)
  • 大豆製品
  • ほうれん草などの緑黄色野菜

ビタミンB12を多く含む食品:

  • 肉類
  • 魚介類
  • 乳製品

葉酸を多く含む食品:

  • 緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)
  • 豆類
  • レバー
  • イチゴなどの果物

バランスの良い食事を心がけることで、これらの栄養素を適切に摂取することができます。

 

運動と赤血球数
適度な運動は赤血球の生成を促進することが知られています。特に有酸素運動は、体内の酸素需要を高めることで、赤血球の生成を刺激します。ただし、過度な運動は逆に赤血球を破壊する「運動性貧血」を引き起こす可能性もあるため、自分の体力に合った運動量を心がけることが大切です。

 

睡眠と休息
質の良い睡眠は、造血機能を含む体の様々な機能の回復に重要です。慢性的な睡眠不足は、赤血球の生成に悪影響を与える可能性があります。また、睡眠時無呼吸症候群は低酸素状態を引き起こし、二次性多血症の原因となることがあります。

 

ストレス管理
慢性的なストレスは、ホルモンバランスの乱れを通じて造血機能に影響を与える可能性があります。また、ストレスによる食欲不振は、鉄分などの必要な栄養素の摂取不足につながることもあります。リラクゼーション法や趣味の時間を持つなど、ストレスを適切に管理することも健康な赤血球数の維持に役立ちます。

 

水分摂取
適切な水分摂取は、血液の濃度を正常に保つために重要です。脱水状態は相対的多血症を引き起こす可能性があります。一日あたり約1.5~2リットルの水分摂取を目安にしましょう。

 

喫煙と飲酒
喫煙は一酸化炭素の吸入により、ヘモグロビンの酸素運搬能力を低下させます。また、過度の飲酒は骨髄機能を抑制し、赤血球の生成に悪影響を与える可能性があります。禁煙や適度な飲酒は、健康な赤血球数の維持に役立ちます。

 

赤血球数の異常値が示す意外な疾患

赤血球数の異常値は、一般的に知られている貧血や多血症以外にも、様々な疾患の兆候となることがあります。健康診断で赤血球数に異常が見られた場合、以下のような意外な疾患の可能性も考慮する必要があります。

 

赤血球数増加と関連する意外な疾患

  1. 腎腫瘍とBPA活性

    一部の腎腫瘍では、腫瘍内のcystから抽出される液体に高いBurst Promoting Activity(BPA)活性が認められることがあります。BPAは赤血球の前駆細胞の増殖を促進する因子で、これが異常に増加することで赤血球増加症を引き起こす可能性があります。実際に、腫瘍摘出後に多血症が改善した症例も報告されています。

     

  2. 睡眠時無呼吸症候群

    睡眠中に呼吸が一時的に停止する睡眠時無呼吸症候群は、夜間の低酸素状態を引き起こします。体はこの低酸素状態に対応するため、エリスロポエチンの産生を増加させ、結果として赤血球数が増加することがあります。いびきや日中の強い眠気がある方は、この疾患の可能性を考慮する必要があります。

     

  3. 高地居住者症候群

    高地に移住した人や、高地で長期間過ごす人は、低酸素環境に適応するために赤血球数が増加します。これは正常な生理的反応ですが、一部の人では過剰な反応が起こり、「高地居住者症候群」と呼ばれる状態になることがあります。頭痛、めまい、息切れなどの症状が現れることがあります。