肝機能異常と健康診断で指摘された症状と対策

健康診断で「肝機能異常」と言われたことはありませんか?実は多くの方が経験するこの指摘、放置すると重大な病気につながる可能性も。肝臓は「無言の臓器」と呼ばれるほど症状が出にくいため、早期発見が重要です。あなたの肝機能、大丈夫ですか?

肝機能異常と健康診断で見つかる症状

肝機能異常の基本知識
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肝機能異常とは

血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、γGTPなどの数値が正常範囲を超えた状態。肝臓の細胞がダメージを受けていることを示します。

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主な原因

脂肪肝、アルコール性肝障害、ウイルス性肝炎、薬物性肝障害などが代表的な原因です。

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放置するリスク

慢性化すると肝硬変や肝がんに進行する可能性があります。早期発見・早期治療が重要です。

健康診断の結果表を見て「肝機能異常」という言葉を目にしたことはありませんか?肝臓は「無言の臓器」とも呼ばれ、異常があっても痛みなどの自覚症状がほとんど現れません。そのため、多くの方が健康診断で初めて肝機能の異常に気づくことになります。

 

肝機能異常とは、血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、γGTPなどの肝機能を示す数値が正常範囲を超えた状態を指します。これらの数値のうち一つでも異常値を示していれば、肝臓になんらかの問題が起きていると考えられるのです。

 

肝臓は体内の「解毒工場」とも言える重要な役割を担っており、栄養の代謝、老廃物の処理、胆汁の分泌など多岐にわたる機能を持っています。そのため、肝臓が正常に働かないと、全身に影響が及ぶ可能性があるのです。

 

肝機能異常と血液検査の数値の関係

健康診断で肝機能を調べる主な検査項目には、以下のようなものがあります:

  • AST(GOT):肝細胞の障害を反映する酵素で、正常値は30〜40 IU/L未満です。

     

  • ALT(GPT):肝臓に特異的な酵素で、正常値は30〜40 IU/L未満です。

     

  • γ-GTP:胆道系の障害を反映する酵素で、正常値は男性で80 IU/L未満、女性で30 IU/L未満です。

     

  • ALP:胆汁の流れの障害を反映する酵素で、正常値は100〜340 IU/L程度です。

     

これらの数値が基準値を超えると、肝機能異常と判断されます。特にASTとALTは肝細胞の障害を直接反映するため、肝炎などの診断に重要な指標となります。

 

また、γ-GTPはアルコールの影響を受けやすく、お酒をよく飲む方は高値になりやすい傾向があります。健康診断でこれらの数値が高いと指摘された場合は、生活習慣の見直しや精密検査を検討する必要があるでしょう。

 

肝機能異常で現れる初期症状と見逃しやすいサイン

肝機能異常の初期段階では、ほとんど自覚症状がないことが特徴です。しかし、進行すると以下のような症状が現れることがあります:

  • 全身の倦怠感や疲労感
  • 食欲不振
  • 吐き気や嘔吐
  • 右上腹部の不快感や痛み
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)

特に注意すべきは「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」といった非特異的な症状です。これらは日常生活の疲れと区別がつきにくく、見逃されがちです。また、アルコールに弱くなる(少量でも二日酔いになりやすい)といった変化も、肝機能低下のサインかもしれません。

 

肝臓は予備能力が高く、70%程度が障害を受けても残りの30%で機能を維持できるため、症状が現れた時にはかなり進行していることがあります。そのため、自覚症状がなくても定期的な健康診断を受けることが重要です。

 

肝機能異常と診断された場合の検査と精密検査の流れ

健康診断で肝機能異常を指摘された場合、まずは消化器内科を受診することをお勧めします。そこでは以下のような精密検査が行われることが一般的です:

  1. 詳細な血液検査
    • 肝炎ウイルス検査(B型、C型など)
    • 自己抗体検査(自己免疫性肝炎の可能性)
    • 肝機能検査の再検査
  2. 画像診断
    • 腹部超音波検査:脂肪肝や肝臓の形態異常を確認
    • CT検査:より詳細な肝臓の状態を確認
    • MRI検査:必要に応じて実施
  3. 必要に応じて肝生検
    • 肝臓の一部を採取して顕微鏡で観察する検査
    • 肝炎の程度や原因を詳細に調べることができる

これらの検査結果を総合的に判断して、肝機能異常の原因を特定していきます。早期に原因を特定することで、適切な治療を開始することができます。

 

特に中高年になってから健康診断で再検査の指摘を受けた場合は、肝臓だけでなく、お腹の中全体を調べて異常の有無を確認することが重要です。マルチスライスCTという機械がある病院では、お腹の中全体はもちろん肝臓などの気になる場所を隅々まで検査できるため、より安心です。

 

肝機能異常の原因となる主な疾患と特徴

肝機能異常を引き起こす主な疾患には、以下のようなものがあります:
1. 脂肪肝(脂肪性肝障害)
肝臓の細胞に中性脂肪が過剰に沈着した状態です。肥満、糖尿病、高脂血症などが原因となります。初期は無症状ですが、進行すると肝炎を引き起こすことがあります。

 

2. 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
アルコールをほとんど飲まないにも関わらず、アルコール性肝障害と同様の症状を呈する疾患です。メタボリックシンドロームと関連があり、放置すると肝硬変や肝がんに進行する危険性があります。

 

3. ウイルス性肝炎
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどの感染により引き起こされる肝炎です。慢性化すると肝硬変や肝がんのリスクが高まります。特にC型肝炎は慢性化しやすく、B型肝炎よりも肝硬変や肝がんへと進行しやすいとされています。

 

4. アルコール性肝障害
過度の飲酒により引き起こされる肝障害です。初期は脂肪肝から始まり、アルコール性肝炎、肝硬変へと進行することがあります。

 

5. 薬物性肝障害
医薬品やサプリメントなどによって引き起こされる肝障害です。薬の服用を中止すると改善することが多いですが、重症化することもあります。

 

6. 自己免疫性肝炎
免疫系の異常により自分の肝細胞を攻撃してしまう疾患です。中年以降の女性に多く、治療には免疫抑制剤が用いられます。

 

これらの疾患は初期には症状がほとんどなく、健康診断で偶然発見されることが多いです。早期発見・早期治療が重要なため、定期的な健康診断を受けることをお勧めします。

 

肝機能異常と生活習慣の改善ポイント

肝機能異常の改善には、生活習慣の見直しが非常に重要です。以下のポイントを意識して日常生活を送りましょう:
1. 食生活の改善

  • バランスの良い食事を心がける
  • 脂質や糖質の摂りすぎに注意
  • 食物繊維を多く含む野菜や果物を積極的に摂取
  • 塩分の摂りすぎに注意
  • 3食規則正しく、よく噛んで食べる

2. 適度な運動

  • 有酸素運動(ウォーキング、水泳など)を週3回程度
  • 無理のない範囲で継続することが重要
  • 運動は肝臓の脂肪を減らす効果がある

3. アルコールとの付き合い方

  • 休肝日を設ける(週に2〜3日は飲まない日を作る)
  • 1日の適量を守る(純アルコールで20g程度、ビールなら中瓶1本程度)
  • 「イッキ飲み」は絶対に避ける

4. 十分な休息と睡眠

  • 質の良い睡眠を確保する
  • 過労を避け、ストレスを溜めない
  • 平日休日問わず、規則正しい生活リズムを意識する

5. 薬やサプリメントの適切な使用

  • 医師や薬剤師の指示に従って服用する
  • 複数の薬を服用する場合は相互作用に注意
  • 健康食品やサプリメントも肝臓に負担をかけることがある

特に脂肪肝が原因の肝機能異常の場合、体重の5〜10%の減量で肝機能が改善することが知られています。無理なダイエットは逆効果なので、長期的な視点で生活習慣を改善していくことが大切です。

 

また、禁煙も肝機能改善に効果的です。喫煙は肝臓の線維化を促進し、肝がんのリスクを高めることが分かっています。

 

肝機能異常から進行する可能性のある重篤な病態

肝機能異常を放置すると、以下のような重篤な病態に進行する可能性があります:
1. 肝硬変
肝臓の細胞が破壊され、線維組織に置き換わった状態です。肝臓の機能が著しく低下し、以下のような症状が現れます:

  • 腹水(お腹に水がたまる)
  • 浮腫(むくみ)
  • 食道静脈瘤(食道の血管が膨らみ、破裂すると吐血する危険性がある)
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • 肝性脳症(意識障害や異常行動)

2. 肝がん
慢性肝炎や肝硬変から肝がんに進行することがあります。特にB型・C型肝炎ウイルスの持続感染者は肝がんのリスクが高いとされています。

 

3. 肝不全
肝臓の機能が著しく低下し、生命を維持できなくなった状態です。急性肝不全と慢性肝不全があり、急性肝不全は数日から数週間で発症し、治療が遅れると死に至ることもあります。

 

4. 肝性脳症
肝臓の解毒機能が低下し、アンモニアなどの有害物質が脳に影響を与えることで起こる意識障害です。初期には集中力低下や性格変化などの症状が現れ、進行すると昏睡状態に至ることもあります。

 

5. 劇症肝炎(急性肝不全)
肝臓の機能がある日突然、全く機能しなくなってしまう病気です。はっきりとした原因が分からないことがほとんどで、救命率は30%前後と低い病気です。特徴的な症状に、「肝性脳症」と呼ばれる重篤な意識障害があります。

 

 

これらの重篤な病態は、早期発見・早期治療によって予防できる可能性があります。健康診断で肝機能異常を指摘された場合は、決して放置せず、専門医を受診することが重要です。

 

特に、全身のだるさや食欲不振などの症状が続く場合や、尿の色が濃くなる、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

 

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、症状が現れにくい臓器です。定期的な健康診断を受け、肝機能異常を早期に発見することが、健康な肝臓を維持するための第一歩となります。

 

健康診断で肝機能異常と指摘されたら、それは肝臓からの重要なメッセージです。適切な検査と生活習慣の改善で、肝臓の健康を取り戻しましょう。