高血圧と血管壁の関係で起こる症状と対策

健康診断で高血圧と指摘されても、自覚症状がないため放置しがちな方も多いのではないでしょうか。本記事では高血圧の仕組みから症状、生活習慣の改善方法まで詳しく解説します。あなたの血圧値、本当に大丈夫ですか?

高血圧と血圧値の関係

高血圧の基本知識
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血圧の正常値

収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満が理想的な血圧値です

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高血圧の診断基準

診察室で収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上の場合に高血圧と診断されます

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日本人の現状

令和元年度の調査では、成人男性の29.9%、女性の24.9%が高血圧と診断される血圧値でした

高血圧の基本的な仕組みと血管への影響

高血圧とは、血液が血管を通る際に血管壁に与える圧力が正常より高く、慢性的に続く状態のことを指します。血圧は心臓から送り出される血液が血管を押す圧力であり、収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)の2種類があります。

 

日本高血圧学会の診断基準では、診察室での測定で収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と定義しています。一方、自宅で測定する家庭血圧では、診察室よりも5mmHg低い基準(135/85mmHg以上)を用いるのが一般的です。

 

高血圧の状態が続くと、血管壁に常に負担がかかるため、血管壁が傷ついたり、血管の柔軟性が失われて固くなったりして、動脈硬化を引き起こしやすくなります。この動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳卒中などの重大な疾患のリスクが高まります。

 

日本では約4,300万人が高血圧と言われていますが、そのうち73%(約3,100万人)は血圧を適正なレベルにコントロールできていないのが現状です。さらに、33%(約1,400万人)は自分が高血圧であることに気づいていないとされています。

 

高血圧時に現れる症状と自覚症状の特徴

高血圧の厄介な点は、多くの場合自覚症状がほとんどないことです。そのため「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。血圧は徐々に上昇していくため、体がその状態に慣れてしまい、異常を感じにくくなるのです。

 

ただし、血圧が非常に高くなった場合(180/120mmHg以上)には、以下のような症状が現れることがあります:

  • 頭痛(特に後頭部)
  • めまいや立ちくらみ
  • 動悸や息切れ
  • 鼻血
  • 耳鳴り
  • 肩こりや首の凝り

これらの症状が現れた場合は、すでに血圧がかなり高い状態になっている可能性があります。しかし、多くの高血圧患者はこうした症状を感じないまま、健康診断や家庭での血圧測定で初めて高血圧に気づくケースが一般的です。

 

高血圧を放置すると、血管に常に高い圧力がかかり続けることで、徐々に血管の内壁が傷つき、動脈硬化が進行します。これにより、脳卒中、心筋梗塞、腎臓病などの重大な合併症を引き起こすリスクが高まります。

 

EPOCH-JAPANをはじめとする国内の研究結果によると、血圧が120/80mmHgを超えて高くなるほど、脳心血管病にかかるリスクやそれによる死亡リスクも高くなることが明らかになっています。また、脳心血管病で死亡している人のうち、約半数は120/80mmHgを超える高い血圧が原因であると試算されています。

 

高血圧と生活習慣病の関連性と合併症リスク

高血圧は単独で存在するだけでなく、他の生活習慣病と密接に関連しています。特に注意すべきは、高血圧が以下のような合併症のリスクを高めることです。

 

脳血管疾患(脳卒中)
高血圧は脳卒中の最大のリスク因子です。血圧が高い状態が続くと、脳の血管が破れて出血する脳出血や、血管が詰まる脳梗塞のリスクが大幅に上昇します。上の血圧(収縮期血圧)が10mmHg上昇するごとに、脳卒中のリスクは約30%増加するという研究結果もあります。

 

心疾患
高血圧は心臓に負担をかけ、心肥大や心不全、冠動脈疾患などを引き起こす原因となります。特に心筋梗塞のリスクは高血圧によって著しく高まります。

 

腎臓病
血圧が高いと腎臓の血管にも負担がかかり、腎機能が低下します。上の血圧が10mmHg上がると、将来腎不全になるリスクが約30%上昇するという研究報告もあります。腎機能が低下すると、体内の塩分や水分の排泄がうまくいかなくなり、さらに血圧が上昇するという悪循環に陥りやすくなります。

 

認知症
近年の研究では、高血圧と認知症の関連性も明らかになってきています。中年期の高血圧は、将来的なアルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクを高めることが分かっています。SPRINT MIND研究の速報によれば、50歳以上では積極的な高血圧治療が認知機能低下予防に必要であるとされています。

 

メタボリックシンドローム
高血圧は、肥満、高血糖、脂質異常症とともに、メタボリックシンドロームの診断基準の一つです。これらの要素が重なると、心血管疾患のリスクは相乗的に高まります。

 

高血圧を放置すると、これらの合併症のリスクが高まるだけでなく、生活の質の低下や寿命の短縮にもつながる可能性があります。そのため、高血圧の早期発見と適切な管理が非常に重要です。

 

高血圧の主な原因とリスク要因の分析

高血圧の原因は大きく分けて「本態性高血圧」と「二次性高血圧」の2種類があります。90〜95%を占める本態性高血圧は、明確な原因が特定できないものですが、以下のようなリスク要因が複合的に関与していると考えられています。

 

1. 遺伝的要因
両親や兄弟姉妹に高血圧の方がいる場合、高血圧になるリスクが高まります。遺伝的な体質は高血圧の重要な要因の一つです。

 

2. 生活習慣要因

  • 塩分の過剰摂取:日本人の食塩摂取量は平均10.1gと、目標値の8gを上回っています。特に60代の摂取量が多い傾向にあります。塩分の過剰摂取は体内の水分量を増やし、血圧上昇の原因となります。

     

  • 肥満:若年層〜中年の男性を中心に、肥満をともなう高血圧の割合が増加しています。肥満は特に拡張期血圧の上昇と関連が強く、メタボリックシンドロームへの進行リスクも高めます。

     

  • 運動不足:定期的な運動は血管の弾力性を高め、血圧を下げる効果がありますが、運動不足はその逆の効果をもたらします。

     

  • アルコールの過剰摂取:適量なら血流改善に役立つこともありますが、過剰な飲酒は血圧上昇の原因となります。特に紹興酒、ビール、日本酒などはプリン体も多く含むため、尿酸値も上昇させやすいです。

     

  • 喫煙:たばこに含まれるニコチンには強い血管収縮作用があり、血圧の上昇を促します。

     

  • ストレス:慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させる原因となります。

     

3. 環境要因

  • 加齢:年齢とともに血管の弾力性が失われ、血圧が上昇しやすくなります。

     

  • 気候:寒冷環境では血管が収縮するため、冬季は血圧が上昇しやすくなります。

     

4. 他の疾患による二次性高血圧
全体の5〜10%を占める二次性高血圧は、以下のような明確な原因疾患があります:

  • 腎臓疾患(腎動脈狭窄症、慢性腎臓病など)
  • 内分泌疾患(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症など)
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 薬剤性(副腎皮質ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、経口避妊薬など)

これらの原因疾患がある場合は、その治療が高血圧改善の鍵となります。

 

高血圧を改善する効果的な生活習慣の見直し方

高血圧の改善には、薬物療法だけでなく、生活習慣の見直しが非常に重要です。以下に、科学的根拠に基づいた効果的な生活習慣改善のポイントをご紹介します。

 

1. 減塩を徹底する
日本人の食塩摂取量は平均10.1gと、目標値の8gを上回っています。高血圧の方は1日6g未満を目指しましょう。

 

具体的な減塩のコツ:

  • 調味料を減塩タイプに切り替える
  • だしの旨味を活用して薄味でも満足感を得る
  • 香辛料やハーブ、酢、レモンなどの酸味を利用する
  • 外食や加工食品の摂取を控える(これらは塩分が多い)
  • 麺類の汁は残す

2. DASH食を取り入れる
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、高血圧改善のために開発された食事法です。野菜、果物、全粒穀物、低脂肪乳製品を多く摂り、肉類や甘いものを控えるのが特徴です。

 

DASH食の効果:収縮期血圧を8〜14mmHg低下させる効果が臨床試験で実証されています。

 

3. 適正体重を維持する
BMI(体格指数)が25を超える肥満は高血圧のリスク要因です。体重が5kg減少すると、収縮期血圧が約4mmHg低下するという研究結果もあります。

 

効果的な体重管理のポイント:

  • 1日の総カロリー摂取量を把握する
  • 食事の量と質を見直す
  • 定期的な運動を習慣化する
  • 少しずつ減量し、リバウンドを防ぐ

4. 定期的な運動を習慣にする
有酸素運動は血管の弾力性を高め、血圧を下げる効果があります。

 

推奨される運動:

  • ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動
  • 1日30分以上、週に5日以上の実施が理想的
  • 強度は「ややきつい」と感じる程度(心拍数が最大心拍数の50〜70%)

運動の効果:定期的な有酸素運動で収縮期血圧が約5〜8mmHg低下することが期待できます。

 

5. アルコール摂取を適量に抑える
過剰な飲酒は血圧上昇の原因となります。特に紹興酒、ビール、日本酒などはプリン体も多く含むため注意が必要です。

 

適量の目安:

  • 男性:日本酒なら1日1合程度(エタノール量で20g程度)
  • 女性:男性の半分程度
  • 週に2日以上の休肝日を設ける

6. 禁煙する
たばこに含まれるニコチンには強い血管収縮作用があり、喫煙直後は一時的に血圧が上昇します。また、長期的な喫煙は動脈硬化を促進します。

 

禁煙の効果:禁煙により、心血管疾患のリスクが大幅に低下します。禁煙後1年で心筋梗塞のリスクが半減するという研究結果もあります。

 

7. ストレス管理を行う
慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血圧上昇の原因となります。

 

効果的なストレス管理法:

  • 深呼吸やメディテーション
  • 十分な睡眠(7〜8時間)
  • 趣味や楽しみの時間を持つ
  • 適度な運動

8. カリウムを多く含む食品を摂取する
カリウムは体内のナトリウム(塩分)排出を促進し、血圧を下げる効果があります。

 

カリウムを多く含む食品:

  • 野菜:ほうれん草、にんじん、アボカド、枝豆など
  • 果物:バナナ、メロン、キウイフルーツ、干し柿など
  • 豆類:大豆、小豆など

これらの生活習慣改善を組み合わせることで、薬に頼らずとも血圧を下げる効果が期待できます。ただし、すでに高血圧と診断されている場合は、医師の指導のもとで適切な治療を受けることが重要です。